長崎県南東部に位置する島原市。今年(2024年)は島原城築城400年記念の節目の年で、市内ではさまざまなイベントが開催されています。島原は古くから「水の都」と呼ばれており、市内のいたるところから、清らかな水が湧き出ているとのことです。
また、島原城や武家屋敷など城下町の風情が残っており、歴史好きな方にもおススメの観光地です。島原では今も「能・狂言」の歴史と文化が伝承されており、毎年秋には、かがり火のもと幽玄で神秘的な「島原城薪能」が行われています。
こうした多くの観光スポットや海の幸、山の幸、湧水、温泉などの観光資源を活かして、「市内の交流人口拡大に注力していきたい」と語る株式会社島原観光ビューローの菅幸博代表取締役社長に話をうかがいました。
株式会社 島原観光ビューロー
菅幸博 代表取締役社長
島原独自の観光資源を有効活用し、市内経済の好循環を実現したい
――島原観光ビューローさまの概要からご説明をお願いします。
弊社は、島原城の管理の代行を行っていた「一般財団法人島原城振興協会」、島原市の観光プロモーションを担っていた「島原温泉観光協会」、「島原温泉旅館組合」及び「島原市観光土産品協会」の四つの観光関係団体を統合して、2016年9月13日に設立された株式会社です。
メインとなる事業は、市が保有する島原城及び鯉のおよぐまち観光交流施設の管理・運営業務で、発行株総数の3分の2を島原市が保有し、残り3分の1を220の法人・個人が保有しています。従来から課題とされていた、観光戦略と施設管理の一元化を担当するマネジメント役の不在、市との連携体制の不足を解決するため、民間主導による観光推進体制を構築し、市内の交流人口拡大を図り、地域経済の好循環を実現するために設立されました。
――さてこの歴史的な節目に、島原観光ビューローの社長に就任されましたが、抱負についてはいかがですか。
期せずして築城400年という節目の年に代表取締役社長の重責を担うこととなり、気を引き締めて日々の業務にあたっています。島原市は、歴史と城下町、ジオパークの恵みである豊富な食、湧水、温泉など、多くの資源を有しています。今後は、こうした島原独自の観光資源を有効活用しながら、既存事業のさらなる磨き上げ、市場の変化に対応した新たなビジネスモデルの構築により、交流人口を拡大し、市内経済の好循環に繋げていきたいと考えています。
「島原城」「島原湧水群」「豊富な海と山の幸」などの有力な観光資源
――続いて島原市のご紹介をお願いします。
島原市は、長崎県南東部の島原半島の東部に位置する人口約4万1,000人の城下町です。江戸時代の1624年、松倉重政公がこの地に島原城を築き、その後松平家などが島原藩7万石として治め、島原半島の政治、経済、教育文化の中枢都市として栄え、明治維新を迎えました。
島原は古くから水の都と呼ばれ、市一帯の湧水群からは清らかな水が湧き出ており、日々の市民生活に欠かせないものとなっています。島原には多くの観光資源がありますが特徴的なものを三つご紹介します。
まず、一つ目は島原城や武家屋敷、文化財指定を受けた古民家など歴史ある建物が点在する古き良き時代の風情を感じさせるレトロな街並みです。
二つ目は、市内70箇所にもおよぶ「島原湧水群」です。その湧水量は、日量22万トンと言われており、島原市民が1日で使う水道量の約2週間分に相当する量となります。
三つ目が四季折々で食することのできる新鮮な「海の幸」「山の幸」などの豊富な食材です。2009年8月、ユネスコから日本で初めて認定された世界ジオパークが「島原半島ユネスコ世界ジオパーク」※です。島原は有史以来、3回の大災害に見舞われるなど負の経緯がある一方、火山の恵みとして肥沃な大地で育まれた農作物、豊かな有明海で獲れる新鮮な海産物、湧水、温泉など多くの恩恵を受けており、火山と共存共栄しているまちと言えます。
※島原半島ユネスコ世界ジオパーク・・・「活火山と人との共生」をテーマにしたジオパーク。島原半島中央に位置する雲仙岳は、噴火活動を繰り返し、大きな災害を引き起こす一方 で、ダイナミックな景観や、温泉や湧水といった恩恵をもたらしてきた。
10月は「島原城築城400年記念イベント」が盛り沢山
――島原城築城400年記念イベントも10月に大きなイベントを控えていますね。
10月は築城400年記念イベントの中でもメインとなる月です。10月5日には、島原城天守閣前広場に特設ステージ(※雨天時:島原文化会館 大ホール)を設置し、島原城で薪能(たきぎのう)が開催されます。演目は、金剛龍謹氏による金剛流舞囃子『高砂(たかさご)』、野村万禄氏による和泉流狂言『六地蔵(ろくじぞう)』、豊嶋晃嗣氏による金剛流能『内外詣(うちともおで)』のほか、肥前島原こども狂言の「しまばら狂言」などです。薪能※は、幻想的な島原城との光景とともに幽玄の世界が表現され、もののあはれを感じることができるでしょう。
※薪能・・・能や狂言を野外に設けた舞台で演じるもの。かがり火に照らされた舞台で演じられる能は、その幻想的な雰囲気も相まって、多くの観客を魅了する。
10月12日~13日には、「しまばら江戸まつり」を開催します。昼には市民が江戸時代の装束をまとい江戸往時の雰囲気を醸し出して練り歩く提灯行列が、夜には島原城を目指した松明行列が行われお祭りムードを盛り上げます。松明をかざした一行が島原城に到着し、最後に天守閣前に設置された大松明に点火をする光景は夜の島原城を彩る必見の見せ場となるでしょう。また、島原市と姉妹都市の福知山市(京都府)から火縄銃部隊を招致して行われる、火縄銃の実演演舞は迫力満点で見応えのあるパフォーマンスになるものと期待しています。また、島原市役前の大屋根広場では、昨年に引き続き「島原城大手門市」を開催。市内外から二日間で延べ120の事業者が出店し、物産市やケイタリングカーでの飲食物販売、フリーマーケット、大道芸や猿回しなどのステージパフォーマンスなど、多彩な催しが行われます。
同月19日~20日には、島原復興アリーナで島原半島の「海の幸」「山の幸」を一堂に会したグルメイベント「島原半島ジオ・マルシェ」が、島原城天守閣広場では「島原城マルシェ」を開催。さらに同月20日には、島原城築城400年を記念して、航空自衛隊第4航空団第11飛行隊「ブルーインパルス」による展示飛行が行われ、華麗なアクロバット演技が島原の空を鮮やかに彩ります。
歴史的に再評価される松倉重政公
――松倉重政公は、歴史的にはキリシタン弾圧や年貢を重くするなどの悪いイメージの大名として取りざたされていますが、近年さまざまな文献により再評価の動きもあるようですね。
分不相応な築城やキリシタン弾圧を行った張本人でそれが江戸時代の大規模な反乱・内戦である島原・天草の乱につながったと今なお語り継がれています。重政公は、島原藩に移る前は、現奈良県五條市の大和国二見城主で1万石の大名だったのですが、善政をしき、地域の発展に尽力されています。具体的には、地域の二見村と五條村の間に約900mの直線道路を整備し、新しい商業の町「五條新町」をつくり、商業を発展させた功績があります。
さらに島原に移った後は、島原城下が島原半島の政治・経済・文化の中心地として発展していく礎を築いたと高く評価されており、「築城に優れていた人物」「城下町を形成し町を振興させた人物」としての事績をより多くの方々に知って欲しいです。
ちょうど、築城400年を記念し、小説家の天津佳之(あまつ・よしゆき)氏が島原城築城主松倉重政の物語『海道の城 〜松倉重政伝〜』を執筆され、このほど完結しました。また、10月19日~20日には、島原城築城400年記念シンポジウム「島原城に隠された4万石大名 松倉重政の戦略」を開催します。
松倉重政公の戦略を解くシンポジウムを開催
シンポジウム1日目には、築城400年を記念して城郭研究者をお招きし、島原城築城の狙いや縄張りに秘められた戦略、石垣構造にみられる工夫、城下町の構造的工夫などの島原城の謎や歴史と文化を語るご講演をいただくとともに、パネルディスカッションも開催。
2日目には、島原城の築城者である松倉重政公の人物像をひも解きます。重政の領地統治のための苛政によって島原・天草一揆が引き起こされたと今なお語り継がれていますが、森岳に島原城を完成させ、優れた治水技術を活かした湧水の利活用、城下町を整備するなど、島原市の基礎づくりに尽力した誇るべき人であることをご紹介します。
領内には、重政が防災事業に熱心に取り組んだ証拠として、近隣の雲仙市千々石(ちぢわ)海岸には、海風による塩害を防ぐために築かれた堤防とその時に防風林として植えられた松が今も残っています。同じく隣接する南島原市でも灌漑用のため池を整備するなど、領主として島原半島内の各地域を的確に整備したことが史実として確認されていることから、世上で言われるような領主ではなかったと私たちは思っています。
「島原城跡」の石垣や堀で国史跡への昇格を目指す
――「島原城跡」は文化財的な評価も高まっているようですが。
特に「島原城跡」の石垣は、文化財として高く評価されています。「島原城跡」には、今も築城当時の石垣や堀が残っており、1964年(昭和39年)には天守閣が再建されました。長崎県教育委員会は、2016年(平成28年)に石垣が残る本丸跡、二の丸跡などの約7万㎡を県史跡に指定しました。
最近の地元紙では、島原市教育委員会はさらに国史跡指定を目指して、本丸跡の地下をレーダー探査するなどの調査を継続し、今年8月下旬に国史跡指定の意見具申書を文部科学相に申請しており、年内にも文化審議会で審議される見通しである旨報じられています。県指定から国指定へ「格上げ」されれば、島原のシンボルである島原城の歴史的価値をあらためて全国に発信することができるとともに、優位性を活かしたプロモーションにより集客増につながるものと期待しています。
――お話をうかがうと、島原城は島原市民にとって大きな財産であることがうかがえます。島原城以外のおススメの観光スポットも教えてください。
江戸時代の下級武士が住んでいた当時の住宅や生活用水路がそのままの形で保存されているのが「武家屋敷」です。ここでは、鳥田邸、篠塚邸、山本邸の三軒の茅葺屋根の屋敷が無料開放されており、歴史的価値の高い文化財として島原市が維持管理を行っています。
次に2015年(平成27年)4月、お土産の展示販売と観光情報を提供する場としてオープンした島原観光の新拠点「鯉の泳ぐまち 観光交流センター『清流亭』」をご紹介します。敷地内には、豊富な湧水を利用した池があり、色とりどりの錦鯉が堂々たる姿で泳ぐ姿を見ることができます。
「清流亭」のそばにある、湧水庭園「四明荘」も是非立ち寄って欲しい観光スポットの一つです。この建物は明治後期に建築され、四方の眺望に優れていることから「四明荘」と名付けられました。色とりどりの鯉がゆうゆうと泳ぐ庭園の池では、1日に約3000トンもの清水がこんこんと湧き出ています。
古民家カフェとして最近人気が高まっているのが、市の委託を受け弊社がオリジナル事業として運営している「しまばら湧水館(Koiカフェゆうすい館)」です。島原名物「かんざらし」や湧水仕立ての珈琲など湧水を利用したメニューが豊富に揃っており、古民家の風情を味わいながらゆっくり寛いでいただける場所となっています。また、予約制によりかんざらしの手作り体験をすることができます。この施設は、「清流亭」と「四明荘」の間に位置しており鯉の泳ぐまち3施設をトライアングルで周遊して欲しいですね。
日本一海に近い駅のひとつ「大三東駅」は人気の映えスポット
最近、映えスポットとして人気が高まっているのが「日本一海に近い駅」のひとつである「島原鉄道 大三東駅(おおみさきえき)」です。この駅は、キリンビバレッジの「キリンレモン 無糖」や日本マクドナルドの「マックシェイク カルピス」のCMの舞台になった事で一躍有名になりました。ホームには「幸せの黄色いハンカチのガチャガチャ」が設置されており、そのハンカチに願い事を書いて駅のホームに吊り下げると願いがかなうといわれています。
食べ物系の施設では、島原名物の白玉スイーツ「かんざらし」を提供する「銀水」が有名です。この店は、1915年(大正4年)に入江ギンさんが店を始め、その後、1955年(昭和30年)に田中ハツヨシさんに引き継がれましたが、高齢化もあり閉店。その後、島原市が買い取り2021年(令和3年)4月から株式会社玉乃舎が指定管理者となり、観光客と地域住民の交流の場として新たな歴史をスタートしました。現在、「かんざらし」を中心に湧水を使った地域の郷土料理が提供されています。
「具雑煮」や「かんざらし」などの郷土料理も島原観光の魅力のひとつ
――郷土料理つながりでうかがいたいのですが、島原ならではのグルメはいかがでしょうか。
島原の名物と言えば「具雑煮」です。島原・天草の乱での一揆軍の総大将・天草四郎が籠城した信徒たちに蓄えていた餅を山や海の幸とともに雑煮として食べたことがはじまりとされています。材料は鶏肉、アナゴ、シロナ、レンコン、ゴボウ、凍り豆腐、椎茸、卵焼き、丸餅、春菊など十数種。まさに海の幸、山の幸の集大成です。島原で獲れる食材はミネラルが豊富で、餅にも染み込み、スープとご一緒に食べて頂くと、皆さん「美味しい」と喜ばれていますね。
次に有名なのが先ほど申し上げた「かんざらし」です。この料理は、もち米を原料とした小さい団子を湧水で冷やし、特製の蜜をかけた島原ならではのスイーツです。懐かしく素朴な味として人気が高く、市内の店舗では、それぞれ異なった味にアレンジをして、提供されています。島原をご訪問される機会があれば、是非「かんざらし」の食べ歩きに挑戦してみてはいかがでしょうか。
新たなインバウンド向けサービスの提供と「数」から「質」への転換を
――話は変わりますが、9月もそろそろ終わるころで2025年度事業の構想を考える時期ですが、何か注力されたい事業はございますか。
大手旅行会社による観光動向予測では、インバウンド需要の増加により2030年代には、国内観光地の3分の2が訪日外国人となり、今後は、外国人好みの体験コンテンツや高価格商品が主力商品になると予想されています。
また、昨年3月に閣議決定された「第四次観光立国推進基本計画」の中でも「インバウンド回復」が戦略の一つに位置付けられており、今後はインバウンド向けサービスの構築が観光浮揚のカギになるものと思っています。同時に旅行者の「数」から「質」への転換が求められており、これからは、一人当たりの旅行消費額をいかに増やしていくかを定量目標とすべきだと考えています。
弊社が管理運営している島原城及び四明荘における昨年度の訪日外国人は、全入場者の1割にも達していませんが、裏を返せばやり方によっては、まだ伸びしろがあると前向きに捉えています。弊社は、今年度国土交通省九州運輸局の「DMO における持続可能な観光地経営のための課題分析等支援事業」のモデル地域に採択されました。本事業では、「域内ステークホルダーを巻き込んだ観光戦略の策定」「インバウンド受入れ可能な体制づくり」「持続可能な滞在型旅行商品の磨き上げ」の3点を解決すべき課題と定め、今後課題解決に向けた調査・検証を行うこととしています。
また、現在弊社が独自に取り組んでいる「しまばらめぐりんチケット※1」、「めぐチャリ※2」、「ハイカラさんが通る※3」の3事業は、事業開始以降これまで順調に実績を伸ばしていますが、今後は、マーケティング調査を基に事業の磨き上げを図るとともに、新たなプライベート商品の開発・販売などにも積極的に取り組むことで、自立・自走可能な会社経営を目指していきたいと考えています。
※1「しまばらめぐりんチケット」
島原城天守閣と湧水庭園四明荘の1日フリー共通入館券のほか、めぐチャリ割引や対象
店舗での割引など様々な特典を付帯したお得な周遊旅行チケット
※2「めぐチャリ」
市内周遊に便利な電動自転車のレンタルサービス
※3「ハイカラさんが通る」
若い世代の女子旅やカップルをターゲットにした袴のレンタルサービス
――地域との連携や他団体との交流はいかがですか。
島原半島には、島原市のほか、雲仙市と南島原市の三つの地方自治体、弊社と「一般社団法人雲仙観光局」及び「一般社団法人南島原ひまわり観光協会」の三つの観光関連団体と島原半島全体を管轄する「一般社団法人島原半島観光連盟」があります。このほか、島原半島全体をフィールドにジオパークの有する地質資産を活かした観光振興に取り組んでいる「島原半島ジオパーク協議会」も忘れてはなりません。今後は、こうした半島内の自治体や観光関係団体とも連携を深めながら、持続的な観光地経営を実現していきたいと考えています。
会社概要
社名 | 株式会社島原観光ビューロー |
住所 | 長崎県島原市下川尻町7番地5島原港ターミナルビル内 |
TEL | 0957-62-4766 |
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