土湯温泉町は、土湯町内の旅館が建ち並ぶ「温泉町」と、標高1,200mの峠に秘湯の宿がある「土湯峠温泉郷」に分かれています。温泉町から土湯峠温泉郷まではクルマで走らせると20分ほどですから、土湯温泉だけで単純温泉・炭酸水素塩泉・硫黄泉など多様な泉質を堪能できる点が大きな魅力です。
また、東北地方ならではの伝統こけしの「土湯系」の場であり、伝統こけしのコレクターの多くの方々が訪れています。
土湯温泉町は、JR福島駅からバスで約40分と市街地近郊に位置し、山々に囲まれ、マイナスイオンを感じられる温泉町です。
今回は、特定非営利活動法人土湯温泉観光協会の渡辺樹璃案(じゅりあん)専務理事に土湯温泉の魅力についてうかがいました。

特定非営利活動法人土湯温泉観光協会の
渡辺樹璃案(じゅりあん)専務理事
地熱発電プロジェクトでSDGsに取組む

――まず土湯温泉町のご紹介からお願いします。

土湯温泉は、福島市内の西部にあり、磐梯朝日国立公園にある温泉地で、開湯1400年以上ある古くからの温泉地です。「湯遊つちゆ温泉協同組合」が中心になって地熱発電プロジェクトに挑み、エネルギーの自給自足を目指し、SDGsに取組み、持続可能な観光地へ展開し、さまざまな事業を推進中です。
――SDGsではどのような取組みを展開されているのでしょうか。



再生可能エネルギーの発電所を2つ保有していますが、一つは、地形・砂防堰堤・水資源を活かした小水力発電。土湯温泉の町内に流れている川の上流に発電所を設け、24時間発電し、活発な温泉エネルギーを利用し、地熱発電を行っております。
単なる地熱発電ではなく、温泉バイナリーという手法で地熱の熱を別の液体を気化させて、その気化させた水蒸気でタービンを稼働する手法を採用しています。温度低下や湯量が変わるというような地元の方々が懸念されるようなことはありません。
開湯伝説には、聖徳太子と側近の秦河勝がかかわる


――続きまして土湯温泉の歴史について解説を。



あの聖徳太子がかかわっていると伝わっています。580年代に病に倒れた聖徳太子の父、用明天皇の回復祈願と仏教布教のため東国に遣わされた秦河勝(はたのかわかつ)がこの土湯を訪れたのです。その時に、聖徳太子が夢に現れ、「今、いる土地を掘ると、温泉が出る」と夢告を行ったのです。そこで河勝が地面を突いたところ、お湯が出たといういわれもあります。





元々、土地を突いて湯が出たところから、「突き湯」との地名だったようでしたが、福島のなまりにより、「土湯」に転化したとの説があったようです。実際、この時代から温泉が湧き出たようですが観光地として発展するのはもう少し後です。
※秦河勝・・・聖徳太子の側近。秦氏は渡来人の末裔の有力氏族で国づくりに大きな貢献を果たしたとされる。先祖は、秦王朝の始皇帝との説もある。
土湯こけし伝承館もある土湯温泉観光交流センター


――次に観光地の紹介もお願いします。



まず、ご紹介するところは、土湯温泉観光交流センターの「湯愛舞台」(ゆめぶたい)。ここは元々、旅館があったところでしたが、東日本大震災で全壊され、その跡地の再利用では福島市と共同で、「都市再生整備計画」を検討し、その一環として「湯愛舞台」を建てました。





こちらには、こけし制作体験室「土湯こけし伝承館」があります。伝統こけし※は、産地別に12系統に分けられ、こちらでは「土湯系」「遠刈田系」「鳴子系」「山形系」など系統ごとに分けて展示し、12系統の伝統こけしが揃っています。伝統こけしも一様ではなく、系統によって形や模様に特徴が異なり、コレクターは、12系統のこけしを求めてそれぞれの産地を訪ねる方も多くいらっしゃいます。
伝統こけし・・・東北地方でのみで制作される、木製の人形。12の系統で分類されており、産地ごとに個性的な特徴を持つ。工人によりつくられ、温泉場と深いかかわりを持つ。江戸末期に農民が湯治のため、休暇を取った際、娘や孫娘へのお土産として、伝統こけしが生まれた説がある。
新たな名店スポット「おららのコミセ」


――「湯愛舞台」以外ではどのような場所がオススメですか。



次に町中に下りますと、「おららのコミセ」というカフェがあり、魅力はエビ釣りが体験できます。冒頭、申し上げましたバイナリー発電で養殖しているエビで、25度の温度で養殖できます。バイナリー発電を実施する際に気化した液体を冷やす際には山水を使うのですが、この山水は10度ですから、山水をそのままエビの養殖向けに使っているんです。





通常、養殖では温度管理が肝要ですから、ヒーターを使用するんですがその点のコストがかかりません。エネルギーは温泉の熱を利用しています。また、カフェでは実際にそのエビを釣って、その場でお召し上がりいただくことができ、今、観光名所になっています。
男沼・女沼で四季を感じられるハイキングコース


――自然豊かな地域でもありますのでそのあたりは。



春は花、秋は紅葉を楽しめ、四季を感じるハイキングコースとして、男沼女沼のハイキングコースがあり、マイナスイオンにより気分をリフレッシュできますよ。また、福島は果物王国で有名です。近隣には観光果樹園があり、くだもの狩り(さくらんぼ・もも・なし・ぶどう・りんご)も楽しめます。
この女沼の方で5月から雪が降る前までのシーズンでサップ・カヤック体験ができます。あわせて簡易的なサウナも併設し、今もサウナブームも続いていますので、アクティビティ体験ではサップ・カヤック、サウナを取入れています。


冬になると標高1,200mの土湯峠では、積雪も多い地域ですから、お宿さんの裏山を利用して、スノーモービルなども体験できます。雪が降るとお客さまの行動もにぶりがちになりますから、雪体験を推奨しています。


――土湯温泉は湯量も豊富で魅力あるお宿さんも多いとうかがっています。



土湯温泉のくくりで申しますと、厳密には土湯温泉と土湯峠温泉郷の2つのエリアに分かれています。土湯温泉町内でいえば、アルカリ性単純泉の無色透明無臭で、刺激が少なく、敏感肌の方にも安心の優しく、湯あがり後もお肌がしっとりするため、通称「美肌の湯」ともいわれています。
土湯峠温泉郷では、硫黄泉となり、青みがかった乳白色の湯に変わるのです。町内から峠まではクルマで走らせると約20分ですが、この近い距離感で異なった泉質を楽しめるところが、土湯温泉の魅力です。湯量や泉質が豊富な土湯温泉を是非現地で体感してください。
旅館でも町内では12軒、さらに2軒は建物をリフォームしてリニューアルオーブンするので最終的には14軒になる予定です。各お宿さんで特色を出していますが、その中でも自家源泉をお持ちのお宿さんもありますし、さらにはペットに特化され、ペットともにご宿泊できるお宿さんもあり、幅広いニーズにお応えできる温泉地になっていくでしょう。
土湯こけしの次世代の担い手を育成中


――次に大きな観光資源でもある土湯こけしのご紹介をお願いします。



土湯こけしの一つ目の特徴は頭頂部に「蛇の目模様」を描き、前髪と髪の間にカセと言われる髪飾り、クジラ目に丸鼻、おちょぼ口を描いた後、ろくろ模様を描く特徴をもって土湯こけしが出来上がります。
――伝統こけしはよく見ると顔の表情がそれぞれ異なり、ある本によると当時の工人が自分の娘をモデルにして出来上がったのではないかという説がありますが。



絵付け体験をされる方もよく見るとご自身のお顔に似てくることもあるようですし、工人さんは一年に多くの伝統こけしをつくりますから、ご自身の娘さんをイメージされることもあるでしょう。
実は、土湯こけしの工人さんもかつては10名以上いらっしゃったのですが、ご高齢により、今は5名と少なくなっています。ただし、土湯こけしは、大きな観光資源ですから、次世代の工人さん育成は町ぐるみで展開する必要があります。実は今、工人見習い女性2名と男性1名がおり、育成途上です。もしこの3名の方々が育っていただければ、土湯こけしの技術承継も実現します。
――伝統こけし一本で食べていくのはすごく大変な気がしますが。



伝統こけしのコレクターの方にお名前とお顔を覚えてもらい、その作品を気に入っていただくのは簡単ではありません。確かに工人さんの中には一握りですが食べていける方もいらっしゃいます。後はご高齢なので、年金暮らしをしながら、伝統こけし工人として収入も得ている方もいらっしゃいます。
どぶろく醸造所を設け、2020年から生産開始


――土湯温泉でのお酒はいかがですか。



福島県自体がお酒の美味しい地域として全国的に認められています。特に土湯温泉では福島市の取組みの中で、醸造所「おららの酒BAR・醇醸蔵」を設け、2020年から土湯温泉でどぶろくを生産中です。
どぶろくは通常の日本酒よりももろみが残っている状態なので、一部には敬遠される方もいらっしゃるのですが、非常にフルーティーで女性にも好まれるようなどぶろくに仕上げています。そこで醸造所で試飲され、お土産物としても好評です。
味名店 そばやラーメンと店も多種多様


――温泉街ですといろんなグルメも豊富だと思うのですが。





日本は今、ラーメンブームで新店開店は歓迎されますが、一方ジャッジは厳しいです。その中で多くの方が「めんや佐々木」で列をなしていることは、店主のこだわりが美味しさにつながっています。
実は、土湯温泉は観光地のプラットフォーム化を目指し、さまざまな地域から土湯温泉で起業され、店を新規開店することを大変歓迎し、街ににぎわいを創出していきたい。その中でアジアンカフェの「Cafelotus」という店舗では、アジアンカレーが人気の的で、今までの土湯温泉にはなかったグルメです。
今、健康を意識される方も多く、ベジタリアンやヴィーガンに対応したグリーンカレーをお召し上がり楽しんでいただくだけではなく、この店主の方はヨガの先生でもいらっしゃいます。1階で食事をされた後には、2階ではヨガを学ぶこともできます。


「土湯アクション20-25」で年間50万人達成目指す
――訪日外国人の集客・誘客の取組みはいかがですか。



福島県全体では台湾人の訪日外国人が多く、土湯温泉でも同様な傾向で外国人の7割が台湾人です。台湾の旧正月は1月末から2月ですからこの時期に台湾の方々が多くいらっしゃいます。この時期は観光シーズンとしては通常は閑散期に入りますから、数多くいらっしゃることは土湯温泉としてはありがたく思います。
ただしお宿さんの中にはインバウンド関係のお客さままで手が回らないところもあり、本協会としては、土湯温泉の大元の窓口の役割を果たせるよう、サポートを行っていきたい。
――最後に今後の展開を。



土湯温泉町は、2020年4月に「土湯アクション20-25」という5年間の目標を町ぐるみで掲げ、2025年3月に「総入込客数50万人/年」を達成目標としています。ただし前半はコロナ禍で打つ手がなかったのですが、コロナ禍も落ち着き、お客さまの観光への動きも従来通りになりつつあり、昨年ベースでは40万人まで伸びております。この残りの1年少しで年間10万人をプラスしたいです。
それでは土湯温泉だけでは厳しいため、外部の方、田舎の言葉では「よそもの」になりますがその方々と連携し、にぎわいをつくり土湯温泉に行きたい方々を増やしていきたいです。
施設概要
名称 | 特定非営利活動法人土湯温泉観光協会 |
住所 | 福島県福島市土湯温泉町字下ノ町22-1 |
TEL | 024-595-2217 |
FAX | 024-595-2016 |
公式HP | https://www.tcy.jp/ |
公式Instagram | https://www.instagram.com/tsuchiyu_kanko/ |
公式YouTube | https://www.youtube.com/@tsuchiyu7539/featured |
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