岐阜県恵那市は、景勝地「恵那峡(えなきょう)」でその名が知られ、多くの奇岩怪石(きがんかいせき)があります。遊覧船に乗って「獅子岩」「屏風岩」「品の字岩」「軍艦岩」とさまざまな壮大な岩石を間近で体感でき、必見の場です。
春には桜、秋には紅葉と映し出す光景もシーズンによって変わりますので一度とならず、二度、三度と是非、訪れたい地域です。
歴史的には、織田信長の叔母・おつやの方が城主をつとめた「岩村城跡」があり、その城下町は、今もなお、江戸時代の雰囲気を残し、NHK連続テレビ小説『半分、青い』のロケ地にもなり、一気に知名度もあがりました。
市内の明智町は、明智光秀公の出生地とも伝えられています。自然と歴史、さらには名産も豊富な恵那市の観光と地域の魅力について、一般社団法人恵那市観光協会の小川智明専務理事に話をうかがいました。
一般社団法人恵那市観光協会
小川智明専務理事
恵那市は名古屋市中心部から60kmの好アクセス
――まず岐阜県・恵那市のご紹介からお願いします。
恵那市は名古屋市の中心部から約60km、岐阜県南東部に位置し、愛知県と長野県に隣接した、自然豊かな地域です。東には恵那山、南には焼山、北には笠置山に囲まれ、また山あいには木曽川や阿木川、矢作川などが流れ、四季折々の姿を楽しむことができます。
1924年(大正13年)に木曽川をせき止めて造られた大井ダムと、峡谷の壮大な風景の「恵那峡」周辺は、県立自然公園に指定されています。その他、阿木川ダムや矢作ダム、小里川ダムなどのダムもあり、ダムが多い市として知られています。
歴史的な観光資源としては、中心市街地を横断する中山道大井宿、南部には800年の歴史を持つ女城主の城下町の岩村町、そして日本三大山城の岩村城跡、レトロな雰囲気漂う日本大正村がある明智町があります。
電力王 福沢桃介の活躍で大井ダムが完成
――それでは大井ダム、恵那峡などの観光名所について教えてください。
緑に囲まれ、静かに水をたたえる「大井ダム」を最初にご紹介いたします。雄大な風景の背景には歴史的な大工事の軌跡が残されています。大正時代に、木曽川の激しい流れをせき止めて建設された国内初のダム式発電所です。
「男伊達ならあの木曽川の流れ来る水をとめてみよ」と木曽節にも歌われていますが、文字通りに木曽川の激流をせきとめたダムです。大正時代にダムが建設されるまで、この付近の木曽川は大きな岩がごろごろした急流でした。
大井ダム建設では福沢桃介と川上貞奴のロマンスも
※福沢桃介・・・実業界では名古屋電灯社長や大同電力社長を務めて木曽川の水力開発を主導するなど多数の電力会社を経営。電力業界での活動により「電気王」「電力王」と呼ばれる。宮寺敏雄の『財界の鬼才 福澤桃介の生涯』によると、後半生では、貞奴を伴侶とし、どこでも貞奴を連れていったという逸話が残る。桃介が財界から引退した後もともに生活したという。
※川上貞奴・・・「日本の近代女優第一号」として国内外で活躍。桃介の学生時代に二人は出会って恋に落ちていたが、桃介が諭吉の二女・房と結婚したことで別の人生を歩む。女優を引退した後の貞奴は、悲恋の相手の桃介と再び結ばれ、大井ダム工事では、貞奴は赤いバイクを乗り回し、現場を訪れ、他の社員が尻込みする中を1人桃介について谷底まで向かい、桃介を支えた。
季節によって楽しみ方も満載な恵那峡と大井ダムの景観
そして大井ダムによって木曽川がせき止められて人造湖ができました。これが恵那峡(えなきょう)で、奇岩を楽しむための遊覧船も出航。豊かな自然に恵まれ春には桜、秋には紅葉と季節によってさまざまな姿を映し出され、多くの観光客に親しまれています。大井ダムによってできた人造湖は、漫々と水をたたえ緑美しい県立自然公園として多くの観光客が訪れています。
このほか、山岡町と瑞浪市境にある多目的ダム「小里川ダム」、串原の景観を形づくるシンボル「奥矢作湖・矢作ダム」、大井ダムの下流に位置し、発電専用に造られた「笠置ダム」、周辺には公園が整備されている「阿木川ダム」がありダムに恵まれた地域です。
インフラツーリズムで、公共インフラの観光に注目が集まり、ダムを訪れる方も増えて参りました。ちなみに、大井ダムと阿木川ダムは、「ダム湖百選」に認定されています。
悲劇の女城主が活躍した軌跡が残る岩村城
――岩村城跡といえば、女城主で有名ですが、この点については。
しかし、景任はほどなくして死去。信長は5男坊の御坊丸を城主として送り込みますが、幼すぎたため。おつやの方が女城主として采配を振るった時期がありました。この当時は信長勢力下の城でした。
敵の武田信玄が西上作戦を開始し、三河・遠江(静岡県西部)方面に侵攻するとともに、武田の名将・秋山虎繁は、岩村城を攻撃。降伏後におつやの方は虎繁の妻となり、岩村城を明け渡し、今度は武田方配下の城になりました。当然のことながら、岩村城降伏と武田家家臣との結婚は、信長視点では裏切りでした。
さらに時代は下り、織田・徳川連合軍は武田勝頼を長篠の戦いで破り、次に岩村城の戦いで、織田軍は武田軍を破り、おつやの方も降伏。最後は岐阜城下ではりつけの刑に処せられました。
信長の叔母ではありましたが、過酷な運命をたどり、悲劇の女城主といえます。おつやの方が善政を敷き、最後まで領民を守ったと伝えられていることから、恵那市岩村町は、「女城主の里」と呼ばれ、今でもおつやの方を慕われています。地元の妙法寺には、おつやの方、夫の虎繁やその配下の武将を弔うために、まくら塚が残っています。
さて、この岩村城跡は、日本三大山城の一つに数えられる名城で財団法人日本城郭協会により、「日本100名城」に選定。本丸が諸藩の居城中最も高い海抜717mに位置し、高低差180mの地形を巧みに利用した要害堅固な山城で、霧のわきやすい気象までも城造りに活かされており、別名「霧ヶ城」ともいわれています。
江戸時代では岩村藩※の中心的な役割を果たす城でもあり、1871年(明治4年)に廃城になりました。
岩村藩・・・岩村城を拠点として美濃国と駿河国の一部を支配した藩。石高は3万石で歴代藩主は、松平氏、丹羽氏。
「半分、青い」の舞台となった岩村城下町
――岩村城の城下町もタイムスリップして、江戸時代の光景が現在にいきていますね。
次に、恵那市岩村町・明智町では、映画『銀河鉄道の父』(2023年5月5日公開)の撮影が行われました。映画の原作は門井慶喜氏の小説で、宮沢賢治の父である政次郎の視点を通して家族の物語を描きました。宮沢賢治が過ごした岩手県花巻市の町並みに近い風景が再現できるとして、岩村町と明智町がロケ地に選ばれました。
城下町を一時通行止めとし、ロケを実施。実は、また、城下町を利用して、また映画やドラマの撮影やロケを行いたいとのお声もいただいています。
※佐藤一斎・・・美濃国岩村藩出身の儒学者。一斎が後半生の四十余年にわたり記した随想録『言志四録』がある。門下生は3,000人と言われ、、佐久間象山、渡辺崋山、横井小楠など幕末に輩出した英才が多数存在する。
恵那市明智町が明智光秀公の出生地!?
――歴史つながりの話をしますと、恵那市は織田信長に仕えた明智光秀公と深くゆかりがあるとされていますね。
恵那市明智町の史伝によると、戦国武将「明智光秀公」の生誕地とされ、光秀公に関する伝承、史跡、母である於牧の方の墓所など数多く残り、町民によって今も語り継がれています。ちなみに、史伝では、落合砦(土岐明智城・多羅砦)で誕生したと伝えられ、砦には、光秀公の産湯として使われたとされる井戸が今も残っています。
私どもも明智光秀公の大河ドラマ化を以前からお願いをしてきましたが、人生が不明な点が多いため、ドラマ化は難しいとの回答でした。ようやく大河ドラマが実現し、うれしい限りです。ただ私どもも働きかけたのですが、明智町で生まれた点ではドラマでは放映されませんでした。
ただ、恵那市観光協会としては、光秀公が生まれた場所が恵那市明智町であることを引き続き訴えていきます。
湖と焚火が創るグランピングリゾートが話題沸騰
――話は変わりますがアクティビティ体験ができる場所を教えてください。
恵那市と中津川市の境に位置する標高930mの「根の上高原」があり、その高原に「保古の湖」があり、そこで湖と焚き火が創り出す、唯一無二のグランピングリゾート「保古グランピング」をオープンしました。グランピングの名の通り、何も持たずに体験できることで、今は大変人気が集まっています。
ここではキャンプファイヤー、湖のそばですからカヌーやSUP、根の上高原でウォーキングを楽しめますし、近くの恵那山荘では、ここはお風呂にも入れるため、こちらも人気です。
次に、恵那市には「串原温泉のささゆりの湯」があり、こちらの近隣にキャンプ場を設け、1日3,000円の協力金をいただきまして、どなたでも宿泊でき、電源も炊事場もございます。このスポットは、温泉も入浴できますから、こちらも人気が集まっています。
東京五輪の事前練習場でポーランドチームが笠置峡を選択
大井ダムの下流で、木曽川の渓谷をせき止めた笠置ダムによって形成された湖「笠置峡」があり、SUPやカヌーができるよう整備。恵那市は、東京五輪2020でボート・カヌー競技の事前キャンプ地として誘致活動を行いました。そこに、ポーランドが恵那市で練習することを決定。ポーランドチームは、笠置峡で練習を重ねた結果、女子カヤックフォア500メートルで銅メダル、女子カヤックペア500メートルで銀メダル獲得するなどご活躍されました。
この後、国内の強豪チームである明治安田生命ボート部と中部電力ボート部などの実業団チームが笠置峡で練習され、合宿場に選択されています。木曽川は急流でしたが、ダムのおかげで今はゆるやかになっています。波が立たず練習ができることで、ボート部の練習場として誘致を図っています。
五平餅、「えなハヤシ」「栗きんとん」など豊富な名産物
――特産品も豊富ということでグルメについてもうかがいたいのですが。
五平餅が有名ですね。お店によってカタチもタレも異なりますから、是非、食べ比べを楽しまれてはいかがでしょうか。次は、「朴葉寿司」。朴葉に酢飯を乗せ、いろいろな具を乗せていきます。切り身のサケ、川魚の甘露煮、マイタケ、ワラビ、きゃらぶき、紅ショウガなど、家庭により乗せる具も変わってくるため、味わいも見た目もバラエティに富んでいます。
岩村藩の藩医であった、早矢仕有的(はやしゆうてき)という人物がおり、実は、ハヤシライスの生みの親なのです。次に、地元の古代米を使った薬膳米のごはん、恵那市特産の寒天や恵那山麓育ちの三浦豚を具として使い、じっくり煮込んだルーを使い、「えなハヤシ」を考案。現在、各飲食店で少しずつパーションを変えつつ、提供中です。
「へぼのごはん」もあります。「へぼ」は東濃地方の方言で「クロスズメバチ」を指します。海から離れた恵那市では、貴重なたんぱく源として小さい蜂の子も食べています。地蜂の成虫と幼虫を甘辛く煮つけ、ごはんに混ぜ込んで食べます。
続いて、恵那栗をふんだんに使った上品な秋の味覚「栗きんとん」や「栗おこわ」なども人気です。室町時代末期、ポルトガルの宣教師によりカステラの製法が日本に伝来。伝来当初の製法で、今もなお作り続けているのはここ岩村の菓子屋だけです。
2024年版「住みたい田舎ベストランキング」で恵那市に注目集まる
――今、各地方自治体は移住の受け入れに積極的になっていますが、この点はいかがですか。
恵那市も他の地方自治体と同様に移住・定住事業を積極的に推進し、おかげさまで移住先として非常に人気が高いです。株式会社宝島社が発行する月刊誌『田舎暮らしの本』では、2024年版第12回「住みたい田舎ベストランキング」を発表。「人口3万人以上5万人未満の市」では、恵那市が「総合」「子育て世代」「シニア世代」の3部門でトップに輝きました。
ただ、移住される方に対して、空き家が不足している課題があります。空き家があっても所有者が手放さない。所有者は、ご両親が亡くなったとしてもこの家は残したいとの思いがあるようです。そこで各地区の移住・定住委員のご努力で空き家問題の解消につとめ、若い方もその空き家に入り、移住される流れになっています。
若い方からの恵那市に対する評価は、「ちょっとクルマを走らせると、買い物も便利」「豊かな自然に恵まれている」「南向きの家が多く、太陽がよく当たって気持ちがいい」とのお声があります。
移住者と地域住民が協働で古民家をリニューアル
先ほど、「串原温泉のささゆりの湯」で紹介した串原地区は昔から移住・定住事業に力を入れていましたがここ数年、若い方がかなり串原地区に移住されているのを感じます。移住された方が、串原地区はとてもいい場所だから、仲間を連れてくるようなお話もあります。
かねてから在住している住民と移住された方が共同でNPO法人奥矢作森林塾を設置し、空き家を自分たちの力でリニューアルしているのです。空き家所有者と交渉され、古びた空き家を上手に改修され、総務省から、2013年(平成25年)に「古民家リフォーム塾 移住定住者と地域住民との協働~みんなでやろまいか!古民家再生~」事業で、過疎地域の持続的発展や創意工夫で地域の活性化が図られている優良事例として表彰を受けました。
『水燃えて火-山師と女優の電力革命』著書の神津カンナ氏による講演会を開催
――今後の貴協会の方針としてはいかがですか。
恵那市観光協会は旅行業の資格を取得しているので、バスツアーを年に春と秋に催行しています。今年のツアーでは日本酒を阿木川ダムで冷却・貯蔵し、1年後にはご自宅に送るプログラムを行いました。また、恵那峡の管理も委託されていますので、この魅力を発信するために「桜まつり」「紅葉まつり」などのイベントも仕掛けています。
また、恵那市全体で、最も力を入れたいイベントとして、「大井ダム完成100周年記念事業」(主催: 大井ダム完成100周年記念実行委員会)を展開中です。
具体的なイベントとしては、「恵那ダムフォトコンテスト2024」で「恵那市のダムのある風景」をテーマにInstagramでの投稿を呼びかけています。具体的な審査内容については下記をご覧ください。
https://enatabi.jp/ooidam/event/photo-contest/
大きな目玉は、12月13日(金曜日)に、福沢桃介と水力発電を題材にした小説『水燃えて火-山師と女優の電力革命』著書の神津カンナ氏による講演会を開催します。大井ダムは恵那市にとって大きなかかわりがありますので是非、ご関心がある方はおいでいただけますと幸いです。
施設概要
名称 | 一般社団法人恵那市観光協会 |
住所 | 〒509-7201 岐阜県恵那市大井町286番地25 |
TEL | 0573-25-4058 |
FAX | 0573-20-0433 |
公式HP | https://www.kankou-ena.jp/ |
公式Facebook | https://www.facebook.com/kankouena/ |
公式X | https://x.com/kankouena55 |
公式Instagram | https://www.instagram.com/kankouena/ |
コメント