日本は本格的に少子高齢化に入り、社会全体がシニアの豊富なキャリアを求めている一方、シニアもその社会的要請を受け、積極的に現場でキャリアを活かされています。
今はシニアといっても20年前と比べはるかに若く、活躍の場は建設現場の施工管理、ビルの設備管理、ビルマネジメントと多岐にわたっています。
そんな中、「年齢は背番号 人生に定年なし®」をスローガンに、34年にわたってシニアの人材派遣や紹介業を行ってきた株式会社マイスター60の存在感が高まっています。
三菱電機株式会社執行役員、東芝三菱電機産業システム株式会社(現株式会社TMEIC)の社長を歴任した、同社の山脇雅彦社長は67歳で、2024年6月に就任したばかり。
「平野茂夫取締役会長の“シニアの技術や技能を大切にすることは社会的に大きな意義がある”という創業の思いを大切にし、より具現化したい」と語る山脇社長に話をうかがいました。
株式会社マイスター60
山脇 雅彦 社長
シニアは生活費を稼ぐ自助の精神で生きることが大切
――山脇社長のご経歴からお願いします。
マイスター60には2023年7月に顧問として入社。社長就任は2024年6月です。前職は、三菱電機株式会社執行役員、東芝三菱電機産業システム株式会社(現株式会社TMEIC)の社長を歴任し、主に電力・産業畑を歩み、モーター等、電機品の製造、発電所、鉄鋼・石油化学などのプラント建設にも携わってまいりました。
人材派遣とのかかわりは前職で派遣を受けて、その方々とご一緒に働いてきた経験がありました。逆に派遣するサイドは全く経験していなかったのですが、今回ご縁をいただき、こちらで社長をつとめることとなりました。
――次は社長就任の抱負を。
自分自身67歳でシニアの一員ですが、前職とは違った職種でチャレンジすることになりました。マイスター60を設立した経緯は、1990年2月1日に平野茂夫取締役会長が、技術者派遣で名をはせる株式会社マイスターエンジニアリングの経営者でありましたが、高齢者の技術技能を大事にしていくことは社会的に意義があるとの思いで設立されました。今でいう、ソーシャルベンチャー会社のはしりでした。
「高齢者の雇用機会を創出し、人々の生きがいを弘め、生涯現役文化をひらく」という経営理念をベースに、「年齢は背番号 人生に定年なし®」を共通の価値観として、事業展開。これまでに建設・施設管理をはじめとする技術部門を中心に8,900人を超える高年齢求職者と企業とのマッチング実績を積み上げてまいりました。
マイスター60自体が高いエンゲージメントを持った活力あるシニア集団として、求職者と企業のニーズにフレキシブルに対応し、建設・施設管理にとどまらず事務部門を含めた幅広い分野での雇用創出にチャレンジしたいです。
これは私自身の考えでありますがシニアは年金に頼って生きるのではなく、ご自身で生活に必要なお金は自分で稼ぐ自助が何よりも大切です。次に共助、公助の順番が社会的に最も重要です。そして私自身もこの理念に沿った仕事を行うことに意義があり、平野会長の創業の志を大切したいです。
その上で営利企業ですから、収益向上は肝要で、仕組み、ノウハウを持続可能なものとして、企業の体制を整備していきます。こうした取組みにより、仕事を担う社員もやっただけの還元を得られ、収入を上げていくような会社としていきたいです。
現場を先読みできるプロジェクトマネージャーは貴重な存在
――山脇社長のご経歴を見ますとプラント工事にご見識が深いため、マイスター60でこの分野を強化すると思いましたが、いかがでしょうか。
まず当社がプラント工事を一気に強化できるかといえば現段階では難しいです。ただし一般論でいえば、建設分野の中にプラント工事は存在しますから、高齢者のご経験を活用することは可能です。私が発電所建設のプロジェクトに携わった経験上申し上げますが、プロジェクトマネージャーや施工管理者にとって重要なことは、リスクを先読みして手を打つことです。それを実行することで工事はスムーズに進みます。
また、優秀なプロジェクトマネージャーほど今申し上げたことを実践しています。周囲から、「あの人の現場はそうしてあんなにスムーズなのだろう」と不思議になるほど、打つ手が適切です。逆にこれがうまくないプロジェクトマネージャーであれば、現場が大騒ぎになって修羅場と化します。
当社では、シニアの経験のある方に現場に入っていただいて工期の遅れや、現場の混乱を解決すべく活躍していただいております。
――今、現場監督や技能者の絶対数が不足しているため、綱渡りで現場を維持しているとの報道もございます。こうした中、高齢者で経験豊かな現場監督のサポートはありがたいとの声もあるようですが。
顧客からいわれたことをただ受け身でこなすプロジェクトマネージャーではうまく現場は回りません。たとえば人員投入の事例では、戦力の逐次投入のやり方ではなく、一気に投入し、現場の進行を先取りする手法がベストであれば、その手法を先手で打てる経験者は大変貴重です。
80代のシニアの活躍、求められる豊富な経験
――こうしたシニアの技術者のご活躍の場がまだまだあることをもっと知られてもいいですね。
若い技術者は、元気であり高所にも上れ、重いものを運べるかもしれませんが、高齢者の技術者は、高いコミュニケーション能力を発揮し、お客さまに「これが大事ですよ」と経験に基づく提言できるという点で、ご活躍できる領域です。
ちなみに、こちらでご活躍されているシニア層の年齢は平均で68歳。4割以上が70歳以上の方です。最も高い年齢では82歳の方で、設備管理の業務にあたり、現場を掛け持ちされています。また、ある都内の工期が遅れている工事現場に72歳の施工管理者を派遣したところ、現場もスムーズに動いた例もあります。
――ほかではどのようなところに派遣されているのでしょうか。
比率として大きいのはビルの設備管理が50%、建設現場以外ではビルマネジメント、データセンター、ビルの内管理事務所での業務、学校施設、美術館などに派遣させていただいています。
ビルの設備管理では受変電の設備の点検、給排水設備で異常の有無のチェックなどの巡回点検をし、中には蛍光灯が切れたため、取り換えなどの作業もあります。一定の大きさのビルには、ビルの管理会社が入り、人が駐在されていますが、24時間シフトの中では知見経験を持つ方の駐在が必要ですから、そこに私どもはシニア人材を派遣しています。
求人のポイントは圧倒的にWEBに軍配
――有為なシニアの募集媒体では紙、ウェブとさまざまあるかと思いますが、その点はいかがですか。
今は圧倒的にウェブですね。マイスター60のHPでも募集コーナーを設置していますが、それだけでは不足していますので、Indeedやマイナビミドルシニアなどの有名な人材募集サイトに掲載。そこでご興味をいだいた高齢者がアクセスすると、今度はマイスター60のHPにつながる仕組みになり、最終的にご登録していただく方式です。
次にマイナビミドルシニア等は、お仕事相談会を新宿・銀座などで開催し、そこではタクシー・トラック会社のほかマイスター60のようなシニア向けの企業が集まり、セミナーに参加されたシニアと机を挟んで業務内容を説明し、その後、登録に入り、ご希望をうかがいます。
営業スタッフが獲得した業務内容が仮に建設現場であれば、元建設会社で働いていた方とマッチングをいたします。我々も登録された方のキャリアや資格内容もうかがっておりますから、それをもとに人材スタッフがマッチングし、給料、現場の場所などの諸条件を説明。ご納得いただければ、現場に入っていただきます。
次に効果を発揮しているのが、リファラル採用。友人や知人などを紹介してもらう手法ですが、紹介した人となりや取得した資格、技術のレベルが事前に分かっていることが大きい。しっかりした方のご紹介であれば受け止める側の我々も安心です。うまく成約できた時には、インセンティブを支払っています。
――派遣されている現場もかなり切迫しているとうかがっていますが、この点はいかがですか。
過去、「65歳以上の施工管理者の活用は難しいです」とおっしゃっていたクライアントも、今や「70歳でも元気であれば歓迎したい」とスタンスが徐々に変わりつつあります。クライアントの意識を変えるほど現場でのプレッシャーが増しており、人材不足感は切迫していると営業スタッフから報告を受けています。
建設現場では施工管理技士の資格取得者、エレベータの設置に関する資格者などの人材の取り合いになっています。先日も、現場に入っている若手を教育できるキャリア豊富な施工管理技士や建築士の求人があり、成約しました。現在数は少ないですが、このようなニーズは多くなっていくのではないでしょうか。
――やはり日本全体が氷河期に雇用を控えたことで指導者が育っていないことが大きいのでしょうか。
日本企業は氷河期時代に人材採用をいったん控えた時期があり、このため、次世代に技術や技能を教育できる人材が欠けてしまったのです。そのぽっかり空いた部分をシニアが背負うことも考えられます。建設、電気いずれの分野でもプラチナシニア※と呼ばれ、年齢は高齢になり、体力は若い時よりも落ちてても、経験や知識は豊富で意欲もある方もいます。
このプラチナシニアの人材を活用しないことは社会的な損失です。建設の技術や電気回路の設計などの伝承面でご活躍いただきたい。今は、どこも人材不足で求人はあるのですが、それに見合った人材が足りていません。
※プラチナシニア・・・技術・技能・経験を有し、なるべく医療や介護のお世話にならず、健康寿命を延ばして、最後まで自分らしい生き方を目指すシニアを指す。
今、国の施策で企業の定年延長や雇用継続が進んでいますが、これはシニアの人材会社にとっては明らかに逆風です。そこで重要なことは上手に有為な人材を集める点にあります。マイスター60も都営三田線神保町駅に広告を出し、また都営地下鉄線(三田線・新宿線)に車内広告を出稿し、認知度アップを心がけています。企業名と業務内容を知られないとWEBで検索してもらえませんので、アピールすることが肝要です。
――超高齢社会を迎える日本では若者はいうに及ばず、シニア層にご活躍いただかなければ、日本のあらゆる局面で国が持たなくなってしまいます。その点でマイスター60さまには大きな期待がかかっています。
実は、先日、ドイツのテレビ局の Zweites Deutsches Fernsehen (ZDF社)の取材を受けました。現在、ドイツは63歳でリタイアが通常ですが、将来、ドイツも高齢社会に入ります。高齢社会の先進国は日本であり、今日本の状況に関心を持たれ、マイスター60に注目され、平野会長に創業の想いなどをインタビューされました。
本社朝礼の風景、派遣先現場でのスタッフインタビューなどを通じて、マイスター60のシニアパワーと就労意欲を何度も称賛されていました。
ドイツは老後の資産形成である年金への議論や取組みがあまり進まず、高齢化で20年先を行く日本の取材を通して、ドイツの現状に問題提起するドキュメンタリー番組を制作したいとの希望でした。ドイツでの放映は2025年1月予定しています。
――今後の方針としてはいかがですか。
冒頭申し上げた通り、収益性の向上や事業の内容、幅も含めて大きくすることにチャレンジしたい。地域について言えば、昨年度名古屋に営業所を開設しましたのでこの中部地域を強化するほか、シニアの女性活躍の分野、世の中に埋もれているプラチナシニアの活用などを模索したいと思います。
山脇雅彦氏の略歴
東京大学大学院修了後、三菱電機株式会社入社。
電力システム製作所長では国内PWRプラナントの建設保守に関与し、その後、電力産業システム事業本部副本部長として、全社を統括。
2010年には執行役員。
退社後、2016年6月に旧東芝三菱電機産業システム株式会社(現株式会社TMEIC)の社長に就任。
その後、相談役に就く。退社後、2023年7月にマイスター60の顧問に、2024年6月から現職へ。
会社概要
名称 | 株式会社マイスター60 |
住所 | 本社 〒101-0003 東京都千代田区一ツ橋2丁目5番5号岩波書店一ツ橋ビル6F |
代表者 | 取締役会長 平野 茂夫 取締役社長 山脇 雅彦 |
従業員数 | 360名(2024年3月31日) |
公式HP | https://www.mystar60.co.jp/ |
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