総務省の2023年「住宅・土地統計調査 住宅数概数集計」によると、空き家は全国で900万戸と過去最多で、空き家率は13.8%に達し、今後、空き家問題は日本の少子高齢化とともに、さらに進行していく見込みです。
不動産の開発事業・リノベーション事業や空き家事業を展開する株式会社ジェクトワン(大河幹男社長)は、空き家解決サービス「アキサポ」を展開、「アキサポの活用」や「アキサポの買取」など所有者が抱える問題に合わせた解決策を提供している。特に首都圏と関西圏を中心に展開する「アキサポの活用」は、リノベーションや賃貸募集もコストゼロで行い、所有者は家賃収入まで入ってくる空き家の活用例も多く、成功を収めています。
ジェクトワンは2022年4月に総務省が支援する「地域活性化起業人制度」を活用し、新潟県三条市と「地域活性化起業人に関する協定」を結び、同社の熊谷浩太氏 (地域コミュニティ事業部)が「三条市特命空き家仕事人」として就任以降、地方の空き家対策を進め、実績を深めています。また、2023年2月には、「アキサポの活用」スキームを利用し、熊谷氏が設立メンバーの一人として参画した「一般社団法人燕三条空き家活用プロジェクト」による空き家活用第1弾となる複合交流拠点「三-Me.」を2023年2月にオープン、地域との連携も深めています。
今回は、ジェクトワンが最近まとめた「空き家所有者の実態と悩みに関する意識調査」、三条市での空き家対策の実績について、熊谷浩太氏にお話しをうかがいました。
株式会社ジェクトワン/三条市特命空き家仕事人
熊谷浩太氏
所有しているが放置されている空き家が多い実態
――まず、最初に空き家を現在所有している、あるいは今後、相続予定の方を対象に、2024年2月にジェクトワンさまが、空き家所有者の現状と空き家の利活用促進に向けた課題について調査されました。その内容の解説からお願いします。
今、私は新潟県三条市で空き家相談の仕事を受けており、その話に沿って、「空き家所有者の実態と悩みに関する意識調査」の解説をいたします。空き家所有者の現状では「相続予定の空き家がある」が59.5%でした。また、「常用していない空き家を所有している」が43.0%も調査の大きなポイントで、空き家について「所有しているが特に使用せず、放置していますがどうしましょうか」との相談がとても多いのです。
総務省が2024年4月に発表した2023年「住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果」によると、2023年10月1日時点の国内の総住宅数は、6,504万戸と過去最多を記録し、空き家数についても900万戸と同じく過去最多で、空き家率は13.8%となり、空き家数は1993年から30年間で約2倍に増加です。
この900万戸の内訳は、別荘や賃貸用に貸す予定があるけれど今はお客さまが不在なため、結果的に空き家になっている住宅も含みます。今、空き家が社会問題化しているのは、常用していない空き家が増えている点にあります。また、冒頭、申し上げた通り、相続予定の空き家も増えていることも悩ましい点です。
空き家を所有しているが何も手だてを打っていない方が顕在化しており、また、将来、空き家になることが見込まれる予備軍も増加し、空き家がますます増えています。
独居の高齢者も増える中、将来的に空き家の増加が見込まれる
――年代別に見た際の、空き家所有状況はいかがですか。
やはり、上の世代に行けば行くほど、空き家を所有している方、あるいは相続予定の空き家がある方が多いです。特に50代~60代は全体的な母数が増えています。
私も三条市を中心に周辺地域での空き家相談会を開催する中で、独居の方からの相談が多い。つまり、旦那様あるいは奥様に先立たれて、広い家に一人で住まわれている方です。特に70~80代の一人暮らしの高齢者も多く、独居での方々をどう対処すべきかは、空き家を解決していく上での課題としてあげられます。年代別に高くなると所有する空き家も複数にまたがる傾向にあります。
空き家への意思決定は関与できるものの解決に至らない実情も
――そもそも空き家への対処はどのくらいの方が関与できるのでしょうか。
調査で空き家の対処において意思決定に関与できるかをたずねたところ、「関与できる」(「所有権を持っており、意思決定に関与できる」+「所有権を持っていないが、意思決定に関与できる」)は88.5%と、9割近い結果です。この調査だけを見ると、空き家を対処可能と認識できるのですが、私の考えとこの結果は少し差異があります。私は地方で相談を受けているので、「空き家の名義が様々な方にまたがっており、自分一人では決定できない」「家族との相談が必要になる」とのご意見が多いのです。
確かにこの調査では「関与できる」との回答ですから高い結果になったのかもしれませんが、もし「意思決定ができる」との問いであれば、もっと下がるイメージです。
空き家での悩みは、不用品の整理が出来ないことがトップに
――空き家所有者の悩みはどこにありますか。
空き家に対する一番のお悩みをたずねたところ、「不用品の整理・撤去ができていない」(9.8%)が最も多かったですが、私も相談を受ける中で同様に感じています。父母や祖父祖母から相続した後の空き家を整理しようとすると、「ゴミ屋敷」であったケースも多いです。また、残置物も多いため、空き家バンクへの登録もできない、または不動産業者に対して売買の相談が出来ない状態で、お悩みになっています。
一方、残置物があっても不動産流通に乗せられるという行政からの発信も必要ですし、私が参加している一般社団法人燕三条空き家活用プロジェクトでは、古物再生事業「REYOO」を開始しました。空き家再生を考える上で中の残置物をどう活用していくかは大きな課題です。また、「空き家の売却・活用を検討する際の制約になることは?」という問いにおいても、「残置物が多くて片づけられない」(13.9%)が最も多く、残置物の整理が大きな課題です。
最も深刻な回答は、「何から始めたらよいかわからない」(12,6%)ですが、空き家の相談会での相談も5割くらいは、この回答と同様です。ほか「処分したい」「活用したい」「とにかく危険を除去したいから解体したい」とそれぞれ残りは約1~2割ずつの回答が寄せられます。
これまで空き家を所有するフェーズに立たされたことはなかったため、感度が低く情報を取得できない方であれば、「まずは不動産屋に相談しよう」「第一歩は行政の相談窓口で相談しよう」という方法をご存じない方がいらっしゃいます。そこで行政が地域に対する空き家窓口の情報発信や我々のように地域で空き家問題に対して取り組んでいるジェクトワンや燕三条空き家活用プロジェクトへの周知をさらに進めていきたい。
空き家の売却・賃貸共に1年の以内にはしないとの回答の意味
――空き家を売却あるいは賃貸しても良いと思えるための条件はなにかありますか。
「どんな条件でも1年以内に売却しない」(31.3%)と「どんな条件でも1年以内に賃貸はしない」(33.4%)との回答が売却・賃貸の両面でもいずれもトップです。親が大切にしていた物件を相続したとしても、すぐ売却や賃貸などに動くのは非常に忍びない想いがあるとおっしゃる方がいらして、一周忌が終わったら売却や賃貸に動かれる方もいらっしゃいます。
そのお気持ちは理解できますが1年経つと物件価値も下がりますし、人が住まない家であれば劣化も進むことから、行政からも早めの手続きを推奨し、我々のような民間の立場からも、「今なら売却できる可能性がありますから、今動かしてみませんか」とのメッセージを伝えています。
売却の2番目にある「解体費や手続き費用などの初期費用がかからない」の回答の意味するところは、自分が相続した空き家にお金をかけたくないので、無料でいいので引き取って欲しいとの本音が垣間見えます。
実際、解体費用は約200万円かかります。そもそも200万円以上で売れるのかも分かりませんから、それなら無料で引き取っていただければありがたいとの考えがあるのです。賃貸の2番目にある「確実に賃貸収入を保証してくれる」の回答の意味するところは、代々住んでいるため処分をしたくないとの思いがあるようです。そこで所有は続ける一方、賃料収入を得て、少なくともマイナスにならないようにしたいという考えがあります。
また、別の方は、「賃貸に出せば儲かる、少しでも多く賃貸収入を得たい」という方もいらっしゃいます。この欲が強すぎると、次の一歩に進めず、空き家の利活用が進まないことにつながるのです。
「アキサポ」サービスは空き家分野のオールラウンドに対応
――空き家解決サービス「アキサポ」の内容と活用のメリットについては。
「アキサポ」は初期費用がかからない唯一無二のサービスと自負しています。基本的に、不動産業者の中には、空き家を買い取り再生して販売するサービスを展開される企業もございます。※物件により諸条件等が異なる場合もございます。
ただし、今申し上げた通り、先祖代々に伝わった土地を手放したくない方が一定数おられます。販売のサービスは他社にもありますが、賃貸でのサービスがそうそうありませんのでそこで困っている事例が地方でも全国でも多くあるのです。ジェクトワンでは物件を借り上げ、管理をして、さらにはリノベーションも実施し次の方に貸し出して運営までの展開には優位性があります。
このスキームは都市部ではうまく機能し、実際多くの空き家再生では付加価値が向上し、いい金額で貸し出せるのです。一方、本当に衰退する地方ですと、都市部で展開しているスキームをそのままでは、難しい。リノベーションによりコストをかけてもそれだけ多くの賃貸料金が得られませんから、資金回収が得られません。または物件が傷みすぎていると、手を付けられない。または、運営の継続が困難などの点に課題を感じているところです。
私が三条市に派遣された後、「アキサポ」のスキームは当然活用するのですが、誰か一人に賃貸するのではなく、もっと細分化し、シェアする手法、共同事業化、国や地方自治体の補助金活用などで工夫を凝らせば、「アキサポ」も地方部で活きてきます。これから「アキサポ」を全国展開する中で冒頭に申し上げた他社にはない優位性を示し、活用しています。
三条市の「移住促進住宅」で地方創生
――三条市特命空き家仕事人としてこれは非常にスムーズに進んだという事例を教えてください。
ジェクトワンは、2022年4月より三条市と「地域活性化起業人に関する協定」を結び、既存空き家の減少と将来の空き家発生の抑止に向けて、空き家対策人材「特命空き家仕事人」として、三条市役所市民部環境課に私を派遣しました。
三条市では、自然も豊かな地域で移住者を呼び込むためのコンテンツとして、空き家を「移住促進住宅」としてリノベーションし、空き家の利活用や移住者の住まい確保を支援するプロジェクトを推進中です。
これは国の財源を使い、築120年の古民家を改修し、実際に移住者を呼び、古民家しつらえを残したまま、その生活を気に入っていただいた方に住んでもらいました。
地域の方はこのような古民家での生活には何の魅力も感じませんが、首都圏や他の地域の方々からは、「自分は古民家に住みたい」と憧れ、実際に探している方はいらっしゃいます。この物件の引き合いはかなり多く、今でも「この物件に住みたかった」とおっしゃる方もいて、このスキームは今4棟目で実施し、高い可能性を感じているところです。
官民連携で社団法人を設立。空き家を入り口に地方再生
――一般社団法人燕三条空き家活用プロジェクトにも参画されていますが。
燕三条空き家活用プロジェクトは、空き家活用事業や空き家イベント、空き家予防保全事業の推進を目的に、地場の大工さん、建築設計事務所、ソーシャルデザインを手掛ける企業や地域おこし協力隊の方々とともに連携して2022年10月に設立しました。燕三条エリアの空き家を再生し、活用につなげ、空き家を皮切りに地方再生をミッションとします。
当法人での空き家活用第1弾では、シェアテナントを中心とした複合交流拠点「三-Me.」を2023年2月にオープン。こちらは、「アキサポ」のスキームを利用しながら、ジェクトワンが事業支援する形で空き家再生を実施しました。鉄骨造3階建ての物件で長年、空きテナントでしたが、1棟丸ごと借り受けました。1つのテナントだけでは収益化が困難なため、3つの用途を入れ込み、1階はシェアテナント・キッチン、2階が移住体験のゲストハウス、3階を移住者が住む住宅とし、いろんな場をシェアし、賃料を安くし、人が集まり、交流とつながりが深まり、発展していくような施設としました。
空き家活用の取組みや建物のコンセプトなどが高く評価され、2023年度グッドデザイン賞「地域の取り組み・活動」部門で受賞しました。「三-Me.」がグッドデザイン賞を受賞した大きな理由が、1つの建物の中に、移住の検討に必要になる複数の機能が盛り込まれていることです。
三条市、移住チームの方々と連携し、ほかの衰退している地域や困っている商店街にも水平展開できる事例と思い、今、ジェクトワンでは地方創生事業を検討し、様々な地域に営業をかけているところですが、同じように悩まれ、新規出店も難しい地域に横展開ができると期待しています。
「燕三条」のブランドを最大限活かす
――この社団法人名の冒頭に「燕三条」というエリアを表わしている理由を教えてください。
「燕三条」は世界的に金物や洋食器作りが盛んな『ものづくりの町』としてのブランドで知られています。地方自治体単位では、燕市、三条市とそれぞれ異なりますが、地域の観光資源や移住者を両自治体で取り合うのではなく、燕三条で仕事をしたい、住みたい、子育てをしたい方々にアピールすることが私たちのミッションです。当法人では燕市と三条市のメンバー両方が加入されており、行政間をまたいだ活動を展開していきたい。
11月24日には、燕市と三条市の垣根を超えて空き家の情報共有や交換出来るセミナーを開催し、これを将来的には「燕三条空き家超会議」というイベントへと発展させていきたい。燕市や三条市で活躍している空き家団体、地域団体、街づくり企業とともに活動し、燕三条は古いものを利活用し、育てる器があり、当法人もそのような意図をもって立ち上げたのです。
新潟県には県央というくくりがあり、三条市、燕市、加茂市、田上町、弥彦村を中心とした地域を指し、三条市に限らずこのエリアをテリトリーとしています。
隣接する弥彦村の空き家のコンサル業務も受託
――県央地域では弥彦村で空き家のコンサル業務を受託されましたが。
三条市で、空き家対策を推進した結果、空き家相談件数が前年度比1,000%超えとなる(2022年度比)などの実績から、弥彦村からジェクトワンに空き家対策のご相談をいただき実現に至ったものです。弥彦村では、村民に対する空き家問題の理解促進や、村内の空き家の最新状況の把握、空き家バンクの運用方法の改善など、さまざまな課題を抱えており、その解決を目指します。三条市で実施していることを横展開できれば、望ましいという方向で2024年1月からスタートしました。
三条市での行動内容を少し変換しながら進め、空き家相談窓口、空き家バンクの開設、空き家セミナー、関連イベント、ミニ空き家相談会の開催のほか、PR発信業務を行い空き家の掘り起こしなどを展開しています。ただ、弥彦村は人口8,000人の小規模自治体ですので空き家も200戸弱です。母数が少ないため、不動産流通に乗せるのが難しく、数字も上っていませんので、顔がお互いに見える範囲での啓発活動を推進中です。
次に弥彦村の空き家活用バンクの再構築をサポートし、「弥彦村空き家・空き地バンク」として2024年7月にリニューアル。このリニューアルに伴い、特設ページとして、県央エリア(現在は、弥彦村、三条市の物件のみ掲載)の空き家バンクに登録された物件情報を総合的に閲覧できる「県央地域空き家特設ページ」を開設。県央地域一体として、空き家・空き地対策の取り組みの推進を目指します。これから弥彦村では移住者向けのお試し移住住宅をつくっていく動きに入っています。
三条市で官民連携がスムーズに進んだワケ
――三条市でのケースでは非常に官民連携がスムーズに進みましたが、この理由はどこにありましたか。
三条市の滝沢亮市長は、3ヶ年で空き家再生を大きく進める強い意志があり、空き家に詳しい外部人材やノウハウを活用したいとのことでジェクトワンにお声がかかりました。そこで誰を派遣するかを検討した結果、私に決まり、三条市に派遣されることになりました。
先ほどの社団法人も官民共創を実現のため設立しました。外部人材にアレルギーもない地域のため、私や地域おこし協力隊の協力も求めています。官と民でできることをそれぞれ分けていますので、スムーズに進んでいる事例です。
官民連携で重要なのは、行政と民間の役割を明確化することだと私は考えています。行政では、ルールづくり、リソース提供、PR発信は重要な一方、地方自治体がすぐに予算化するのは難しく、スピード感やノウハウの蓄積もないため、ある程度、民間にアウトソーシングするのが肝要です。そこで先ほどの社団法人を設立し、さらにジェクトワンと三条市が連携して、コストコントロールを行いながら、ノウハウの提供することで、空き家問題の解決に当たっています。
三条市はかなりうまくいったケースで、たとえば外部人材を受け入れる点に抵抗がある地方自治体では、職員が疲弊しながらルールづくり、空き家相談、マッチングまですべて担当しているところもあります。しかしこれは現実的ではない業務量なので、空き家問題の解決が遠ざかることになるのです。
――これから燕三条での経験をもとに、ジェクトワンさまの地方創生事業も本格化しますね。
特命空き家仕事人として地方で空き家対策に手ごたえを得ました。全国に横展開を実施し、燕三条の経験をもとに、空き家活用の点を増やすだけでなく、線、面につなげるエリア再生を進めていきます。私も各地域に営業をしていますが、その際、三条市への派遣が完了しましたら、ありがたいことにこちらに来ていただけますかとお声をかけていただけています。三条市のように私が派遣する形は今後難しいですが、、さまざまな地域で空き家問題解決に取り組みたいと考えています。
会社概要
名称 | 株式会社ジェクトワン |
住所 | <東京本社> 〒150-0002東京都渋谷区渋谷二丁目17番1号 渋谷アクシュ21階 |
公式HP | https://jectone.jp/ |
公式アキサポ | https://www.akisapo.jp/ |
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